ハイマツ帯

たまに更新できればいいな

石坂の"洋サン"

ナッツ

 屋久島からナッツが送られてきた。どのナッツかと言うと、一番よく目にするナッツで、すなわち岩の間に挟んでリードクライミングの際に支点とする例のナッツである。

 2016年度の秋、部の後輩と一緒に屋久島で最難の沢を遡行した。その核心部は激しいチムニー地形の登攀で、リードで登りながら、なんでこんなところに来てしまったんだ(行こうと言い出したのは自分である)、もう沢登りなんてやめようとか思っていたことをよく覚えている。そこでは例のナッツをガッチリ岩にはめ、あぶみ(はしご状のロープ)をかけ、その支点を命の頼りにして登攀した。ナッツがあまりにガッチリはまったので回収できなくなり、やむなく残置したのだった。

 そんな思い出があり、いつか回収できたらなと思っていたナッツが、ひょんなことから手元に帰ってきた。傷も愛おしい。もし屋久島の某川を遡行される人がいたら、貸すので言ってほしい。

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吝嗇

 前職の同期の一人に全然金を使わないSという男がいた。どれくらい金を使わないかと言うと、200円代ののり弁を食べまくり、一か月昼飯に食べ続けたという伝説がある。その結果、Sによると味覚がおかしくなったらしく、普通の水を飲むだけでやたらにがくなったりするなどの症状に悩まされたとのことだった。その後はさすがに会社の近くの学食にも行くようになった。また、私的な飲み会にはほとんど参加しないが、やむなく参加する時には、「自分は水しか飲まないので、その分割り引いてくれ」と言うのが印象的であった。

 このSは有体に言ってあまり明るくなく、社交性を要する場が嫌いな男であった。金を使わない理由を聞いても謎で、正直なところ私は、ただ単に吝嗇な性格なのだと思っていた。

 Sと私はともに社会性が欠如していることもあり、比較的仲良くしていた。もう一人仲の良い同期のR(人格が破綻していた)がいた。私が転職を考え始めたころだが、3人で集まった際に、転職しようと思うという話をした。と、Sも実は仕事をやめる計画があり、それも転職ではなく、大学院の博士後期課程に行くとのことだった。Sはもともとこの会社に入った時からまたアカデミックの世界に戻るつもりで、この会社は学費や生活費を貯めるための出稼ぎ程度に考えていたのだった。ようやく私は、Sがなぜこんなに金を使わないかがわかった。単なる吝嗇どころではなく、Sは固く強い意志を保ち続けていたのだった。

 前職の最終出社日、SとRから金麦を6缶もらった。